2011-07-22

【日経一面企業分析】NTTドコモ[9437] 

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日米の上場企業が自社株買いを増やしている。
◆ 記事への素朴な疑問

ドコモやキヤノンなど、「自社株買い」を進めている企業が増えていますよ、というニュースです。株主還元の施策として自社株買いが増えている背景は、能力skill)」と「意思will)」に分けて考えるとよいのではないでしょうか。「能力」これは自社株買いをするだけの余力があるかということです。上場企業は過去最高水準の手元現金をBSに積んでいるという状況があります。次に「意思」、これは自社株買いがもつメッセージ機能があります。自らの株を買うということは最大のインサイダーである彼らが、「自社の株が割安である」というメッセージを市場に発することになります。また、各社の事業戦略との兼ね合いが考えられます。

さて、両社の事業戦略・財務戦略はどうなっているのでしょうか?
そして、情報通信と電気機器メーカー2社に共通点・相違点はあるのでしょうか?

以下、NTTドコモの財務について分析します。また還元に積極的な企業として記事にも登場しているキヤノン[7751]と合わせて紹介します。キヤノンの財務の詳細については 、『EU、デジタル複合機の関税削減・撤廃へ』で扱っていますので、ぜひご覧になってください。

◆ 損益計算書の視点

NTTドコモ[9437]のPL(2002-2011)
2011年3月期の売上は4.2兆円ちょっと、同じく営業利益は8,400億円ほど。売上はダウントレンドですが、利益水準は殆ど変わりがありません。営業利益率は20%(!)を超えており、極めて高い事業効率の企業だといえます。
ソフトバンクの追い上げをうけていますがやはりNo.1企業といったところでしょう。また、キヤノンに比べると業績のブレがすくないのがわかります。通信事業はナンバーポータビリティー制度が導入されたとはいえ、継続性の高い事業特性をもっているためと考えられます。


◆ キャッシュフローの視点
NTTドコモ[9437]のキャッシュフロー(2002-2011)
キャッシュフローマトリクスの右下、安定期の領域、しかも同じようなところに留まっています。

どういうことでしょうか?インフラ的な性格の強い通信事業は、毎期の投資水準も安定しています。これに対し、顧客からの収入も先ほど述べたように継続して入ってきます。市場そのものは成長していませんが、結果として毎期安定したフリーキャッシュフローを生み出しているのです。

財務CFで株主還元の姿勢を見てみましょう。こちらも毎期安定してマイナスとなっています。安定事業基盤をもち、せっせと株主還元する。かつての東電のようなインフラ配当銘柄といった印象です。

さて、B/Sにはどんな変化が現れているのでしょうか?


◆ バランスシートの視点
NTTドコモ[9437]のBS(2002-2011)
PLで稼いだ利益が積み上がり、分厚い株主資本になっており、ほぼ無借金となっています。ソフトバンクが膨大な有利子負債を積み上げているのに対し、極めて対照的なBSといえます。直近のBSに載っている現預金は9,000億円あまり、今回設定された自社株買いの枠200億円のインパクトは特段大きなものには感じられません。


◆ 事業戦略・財務戦略の違いは?

さて、両者の株主還元はどうなっているか比較してみましょう。まずは、当期の純利益のうちどれだけを配当に回しているか、という配当性向を使ってみてみます。
*キヤノン・NTTドコモの配当性向(2004-2011)
(*キヤノンの2011年は、2010年12月決算の値)
2010年のキヤノンの配当性向が100%を超えています。つまり、その年稼いだ利益を全部(それに加え、BSという蔵から持ち出して)株主に配当したということです。これに対し、ドコモは2007年以降40%程度で安定しています。ただ、配当性向だけだとどちらが還元に積極的か、一概には言えません。それは、そもそも配当性向という指標が分母に純利益をとるため、ブレやすい指標ということがあります。
そこで、純資産のうちどれだけを配当に回したかを示す、DOE(Dividend on Equity)で見てみることにしましょう。これは、リーマンショック後、PERは意味をなさなくなってしまった時に、代わりの指標としてPBRで企業の割安度を判断しようとしたのと似ています。それだけPLは動きやすく、BSは動きづらいということです。

*キヤノン・NTTドコモのDOE(2004-2011)
(*キヤノンの2011年は、2010年12月決算の値)
2007年を除き、キヤノンのDOEがドコモを上回っています。それだけキヤノンは株主還元に積極的だ、ということが出来ます。毎年純資産の5%を株主に払い戻しているということです。普通に考えれば縮小していってしまうものですが、両者は事業からしっかり稼いでいるためにこのようなことが可能なのです。

今回の記事にあるように、両者の自社株買いの枠はドコモが200億、キヤノンは500億という水準でした。この点もキヤノンの積極的な株主還元への姿勢が現れています。

◆ 「素朴な疑問」への回答は?

企業の「行動」であるキャッシュフローの推移からもわかるように両者の事業戦略はよく似ていました。
財務戦略についても、両者ほぼ無借金で似ているとも言えます。ただ、株主還元に関しては若干の違いがあるように思います。事業の安定性でいくと顧客基盤がしっかりしたドコモに比べれば、消費財を扱うキヤノンは不安定といえるでしょう。にもかかわらず、キヤノンの方が株主還元に積極的だというのは驚きでした。ドコモは
株主主権の強いアメリカならもっとレバレッジをかけて資本効率を上げろ!還元しろ!という声がかかりそうなレベルです。とはいえ、現状でもROICは9.6%と優秀な水準にありますが・・・。

ただ個人的には、せっかく円の(金利)が安くて、(為替が)強い今、株主還元もいいけど事業投資もね!と言いたい気分です。

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