◆ M&A攻勢へ5兆円 東芝・旭化成など26社(2011/07/06)
M&A(合併・買収)に備え投資枠を設定する有力企業が増えている。
◆ 記事への素朴な疑問
M&Aのための投資枠を拡大させている企業が増えてます、というニュースです。今後数年の投資枠を公表している企業26社、その投資枠を合計すると5兆円となるそうです(日経新聞調べ)。これは、昨年度の日本企業が買い手となったM&Aの総額3.9兆円(トムソン・ロイター調べ、金融除く)を超える水準だといいます。今回のリストで大きな投資枠を設定している企業はアサヒグループHD8,000億円、東芝7,000億円、三菱ケミカルHD5,000億円、旭化成4,500億円、味の素3,000億円といったところです。
素朴なツッコミとして、ユニバースも、期間も異なっている両者を比べてどうするの?という気もします。ただ、成長分野や新興国への展開を進めたいという思惑は各社共通しているところでしょう。
さて、各社の投資の規模はどの程度なのでしょうか?
そして、その水準は競合他社と比べてどの程度なのでしょうか?
以下、今回のリストの中で最大の投資枠を設定しているアサヒグループHD[2502]の財務状況を中心に分析します。「アサヒグループHD?」と思われた方、アサヒグループHDはアサヒビールが7/1付で持株会社に移行したものです。ただ、現時点では「アサヒグループ」とググるとパチスロメーカーが上位に表示されているようです。
◆ キャッシュフローの視点
キャッシュフローマトリクスをざっと見ると「営業CF>投資CF」の安定期ゾーンにいるようです。よくみると、2000年代序盤から中盤までは安定期にいたものが、中盤から後半にかけては「営業CF<投資CF」の投資期にも移行しつつあることがわかります。投資に積極的な姿がうかがえます。さて、今回公表されている投資の規模はどの程度なのでしょうか?投資CFは設備投資+M&A投資で構成され、単純に今回のM&A投資枠とは比較はできません。ただ、5年で8,000億円(1年にならすと1,600億円)という水準はここ数年で最大の規模となった2009年の1,800億円に迫る水準です。かなりの大型投資といえそうです。
それでは、さらにB/Sで投資の規模がどの程度なのか、見ていくことにしましょう。
それでは、さらにB/Sで投資の規模がどの程度なのか、見ていくことにしましょう。
◆ バランスシートの視点
![]() |
| アサヒグループHD[2502]のBS(1998-2010) |
1998年から2010年までのBSの推移です。PLで見たように売上はほとんど伸びていませんでしたが、総資産の規模もほとんど動いていません。
しかし、BSの内訳、特に右側の調達面には大きな変化がみられます。1998年時点は黄色の株主資本に比べ、実線で囲った借金(短期借入金+長期借入金)が約1.6倍ありました。これが2010年には有利子負債は株主資本の半分ちょっとまで削減されています。アサヒはフリーキャッシュフローを借金の返済に回していたということなのです。
さて、PLの視点で営業利益に比べ、純利益が伸びていたのを覚えていますか?これは借金の元本を返済することにより金利の負担が減ったことが要因だったといえるでしょう。その結果、株主資本が積み上がってきているのです。
さて今回の投資の規模はどの程度なのでしょうか?2010年の総資産は1.4兆円、今後8,000億円のM&Aをしていくとするとそのインパクトは思ったより大きそうです。とすると、投資の種銭が必要になります。増資をするのか?それとも一旦減らした借金をまた増やすのか?
そして、水準は競合他社と比べてどの程度なのでしょうか?ここでM&Aに関してはアサヒを大きく先行しているキリンHD[2503]の事例を見てみることにしましょう。
◆ 競合比較
![]() |
| アサヒグループHD[2502]とキリンHD[2503]のPL(1998-2010) |
キリンHDはM&Aで業績を大きく伸ばしています。横ばいのアサヒに比べ、特にこの数年大きく伸長しています。キリンとアサヒというと国内のシェア争いがニュースになりがちですが、全体の業績という観点からするとこんなにも差が付いているのです。
![]() |
| キリンHD[2503]のBS(1998-2010) |
こちらは1998年から2010年までのキリンHDのBSの推移です。総資産の規模が大きく伸びています。
BSの内訳、まず左側の運用面から見てみましょう。すると、黄緑色の投資等、灰色の無形固定資産が大きく増えています。これはM&Aにより発生したものです。
さて、これだけの買い物の調達資金をキリンHDはどこから調達したのでしょうか?右側の調達面をみていきましょう。すると、借金の水準が大きく増えていることがわかります。キリンHDは借金で調達した資金でM&Aを進めていった、ということです。
◆ 返したアサヒ、投資のために借りたキリン
両社のここ十数年の財務戦略は好対照です。それぞれをひとことで言うと「返したアサヒ、投資のために借りたキリン」ということがいえるでしょう。借金の利用度を示すD/Eレシオの推移をご覧ください。
両社のここ十数年の財務戦略は好対照です。それぞれをひとことで言うと「返したアサヒ、投資のために借りたキリン」ということがいえるでしょう。借金の利用度を示すD/Eレシオの推移をご覧ください。
![]() |
| アサヒグループHD[2502]とキリンHD[2503]のD/Eレシオ(1998-2010) |
キリンHDは先行して「攻め」の拡大戦略を採用し、そのための資金は外部から調達するという財務戦略をとりました。その背景には投資資金を外部から調達できるだけの財務健全性があったのです(借金まみれの人に積極的に貸そうとする人はいるでしょうか?)。結果、D/Eレシオは上昇を続け、アサヒグループを上回る水準になっています。
翻って、アサヒグループHDは過去十数年借金を返し続けるという「守り」の財務戦略をとってきました。これにより、D/Eレシオは一貫して下降トレンドにありました。新しい投資をしたくても過去の借金が重たくて投資資金の調達に二の足を踏んでいたのかもしれません。しかし、今回の8,000億円の投資枠の設定からもわかるように「攻め」に軸足を移しつつあるといえるでしょう。その背景には、新たな借金ができるだけの財務の健全化があったのです。
★ アサヒグループHD[2502]の詳細情報はこちらから






