2011-08-12

【日経一面企業分析】JT[2914]

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政府・与党は東日本大震災の復興財源に充てるため、日本たばこ産業(JT)の政府保有株を売却する検討に入った。
◆ 記事への素朴な疑問


復興財源確保のために、政府が保有している株式を現金に変えてはどうでしょうか?という声が上がっているというニュースです。JTは政府の認可により国内でのタバコ製造を独占的に行っています。そして、その株式の50%超は国が保有しており、JTの時価総額は8/12時点で3兆円を超えています。


さて、そんなJTの財務はどうなっているのでしょうか?
また、政府は本当にJT株を放出してしまうのでしょうか?

以下、JTの財務について分析します。



◆ 損益計算書の視点
JT[2914]のPL(2002-2011)
直近の売上は6.1兆円、そして営業利益は3,000億円という額に上っており、営業利益率は5.3%といったところです。売上を見ると、2008年度以降大きく伸びています。最近、日本に急な喫煙ブームが来たかというと、そんなニュースは聞きません。とすると売上をどこかから持ってきた、つまりM&Aによるものと推察できます。実際JTは2007年4月に英国のタバコ会社Gallaherを完全子会社にしています。

さて、さる7月28日にJTは2012年第1四半期の決算を発表しました。シェアーズのグラフでもその数字を確認できます。が、その数字に驚きました!



◆ 損益計算書(四半期)の視点 - 売上大幅減のナゾ

下記グラフは四半期ごとの業績を並べたものです。直近の2012年第1四半期の売上が大幅に落ち込んでいるのがわかります。その額、前の四半期から比べて1兆円近く・・・
JTに一体何が起こってしまったのでしょうか?
JT[2914]の四半期PL(2009Q2-2012Q1)
最近起こったイベントとして思い当たるのは、たばこ税の値上げです。値上げの前に消費者が買いだめし、直近の売上が落ち込んでしまったのでしょうか?しかし、よく見ると売上は減少しているものの、利益の水準は前の四半期、そして前年同四半期と比較してもあまり変わりがないように見えます。いったいどういうことでしょうか?

◆ 会計方針の視点 - IFRS的になったJTの売上認識


その答えは「売上」の定義自体を変えてしまったことにあります。JTは会計方針・会計上の見積りの変更・修正再表示として次のような開示を行っています。
(たばこ税相当額の売上高及び売上原価からの控除) 

当社グループは従来、たばこ税相当額を売上高及び売上原価に含める方法を採用しておりましたが、当第 1 四半期連結会計期間より、これを売上高及び売上原価から控除する方法に変更しております。たばこ税については、各国において異なる仕組みにより課税されておりますが、売上高に含まれるたばこ税相当額はその同額が売上原価に含まれているため、利益に影響を与えるものではありません。しかしながら、近年、各国でたばこ税の増税が実施される状況下において、売上高及び売上原価に含まれるたばこ税相当額の増加により、当社グループの業績が事業活動の成果以上に過大に捉えられる可能性があると考えております。 
このような環境下においてたばこ税相当額を売上高及び売上原価から控除し表示することで、当社グループの業績をより適切に開示できると考えております。
(出所:2010年3月期第1四半期決算短信、太字は筆者が加筆)

売上のイメージ、日本基準的vsIFRS的


JTの今回の売上認識方法の変更は、日本基準的な認識方法から国際財務報告基準、IFRS(International Financial Reporting Standardの略、アイエフアールエス、イファース、アイファース、イフルスなど呼び方自体も定まっていない)的な認識方法への変更といえます。
ポイントになるのは、「リスク」という言葉です。IFRS的な思考では、取引の当事者としてではなく、媒介者として対価を回収する代理人は、その回収金額の全額ではなく、手数料に相当する部分のみを収益計上しなければならない、というのです。代理人は、売上に関して「リスク」をとっていないんだから、手数料だけを「純額」で収益計上すべし、という理屈です。

JTの例でいえば、JTはたばこ税の徴収を国に代わって一時的に行っているだけで、何らリスクを負っているわけではありません(国家が破綻する!というリスクはここでは想定されていませんが・・・)。これにより、「売上」の額は大きく減少しましたが、「利益」が実質的に変わるわけではありません。なぜなら売上に計上されていたたばこ税と同時に、原価にのっているたばこ税も減るからです。それが、「総額」から「純額」に変わるということです。会計基準というモノサシが変わってもビジネスの実態が変わるわけではないのです(さて、M&A、IFRSといえばのれんを償却するか、しないか?という論点もあります。これはまた別の機会で・・・。)


今回の会計方針の変更でJTは過去の売上も修正しています。これによると2011年の第1四半期の売上は、1兆4670億円から5880億円へ、しかし営業利益は790億円で変わりがありません。

さて、B/Sにはどんな変化が現れているのでしょうか?

◆ バランスシートの視点

JT[2914]のBS(2007-2011)
先ほど英国のタバコ会社Gallaherを子会社化したといいました。それにより、2007年から2008年にかけてBSが大きく膨らんでいます。結果、無形固定資産がBSの過半超を占めるまでに至っています。買収に際してそれだけプレミアムをたくさん払った、ということです。


◆ 「素朴な疑問」への回答は?

さて、JTは国内・海外のタバコ事業の他にも、医薬・食品という事業も行っています。しかし、収益性抜群のタバコ事業に比べ、他の事業セグメントは全くもってイケてない、というのが正直な所です。本業から潤沢なキャッシュが生まれている会社にありがちな多角化ならぬ、典型的な多「悪」化事例ではないでしょうか?低成長な国内の医薬食品市場に投資するよりも徹底して本業であるタバコ事業に注力すべきだと思います。強い円は海外M&Aには絶好の追い風です。つい最近では450万ドルでスーダンで80%のシェアを持つタバコ会社の買収も発表しています。短期的な資金需要でこの株を手放してしまうのは正直勿体無いように感じてしまうのですが・・・


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