2011-08-26

【日経一面企業分析】キリンHD[2503]

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◆ 円高対応資金枠1000億ドル 政府、企業の海外投資促す(2011/8/24)
野田佳彦財務相は24日午前、当面の外国為替市場での円高に対応するための「円高対応緊急パッケージ」を発表した。外国為替特別会計のドル資金1000億ドル(約7.6兆円)を使った資金枠を設定、日本企業が海外の企業や資源権益を買収する原資にする。
◆ 記事への素朴な疑問


円高に対応するために、介入を行ってきた財務省ですが新たな手を打ってきました。ただ、マーケットに直接お金を注入するという介入とは毛色が違います。日本企業に対して、間接的に1000億ドルを融資するというのです。


さて、今回のスキームはどういう構造になっているのでしょうか?
また、このスキームはどう評価すればよいのでしょうか?


以下、円高対応緊急パッケージのうち、円高対応緊急ファシリティのスキームについて分析します。

◆ マネーの流れはどうなっている?


今回のスキームがどうなっているのか?まずは、財務省にある「円高対応緊急パッケージについて」を見てみましょう(そのままコピペしただけですが・・・)



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1. 円高対応緊急ファシリティ(1,000億ドル)の創設
【目的】
・急激な円高の進行に対応し、民間円資金の外貨への転換(いわゆる円投)の促進による、為替相場の安定化
・長期的な国富の増大
【基本枠組】
・外為特会のドル資金を、国際協力銀行を経由して活用
・公的部門によるリスクマネーの供給や政策融資により、①日本企業による海外企業の買収や、②資源・エネルギーの確保などを促進し、これを民間部門の円投の呼び水とする
【金額・金利】
・政策融資の財源として、外為特会から国際協力銀行に対し、最大1,000億ドルを、6か月LIBOR金利で融通
・国際協力銀行から合計1,500億円規模を出資
【期間】
・1年間の時限措置
【具体的方策】 
(1)M&Aの促進
  ①邦銀へのクレジット・ライン供与 
  ②産業革新機構との連携 
(2)資源・エネルギーの確保・開発の促進 
(3)中小企業の輸出等の支援
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財務省が公表(pdf)している、2010年3月末時点の外為特会BSをもとに今回のスキームを図示してみました。全体としては、外為特会の保有するドルが国際協力銀行を通じて、融資に応募した各企業へ流れていく、そしてそれぞれの企業はドルを使って対外投資を進めるというものです。なお、これが公表されている最新の財表で、現時点のBSとは異なります。ただ、先日行われた介入が4.5兆円規模だったことなどと合わせてイメージは掴めるのではないでしょうか。
「円高対応緊急ファシリティ」の資金の流れ
なお、外為特会・国際協力銀行のBSは2010年3月末時点のもの
このうち、まずは資金のおおもとである外為特会のBSを見ていくことにしましょう。

◆ バランスシートの視点

外為特会のBSの規模は総資産115.3兆円、数字が大きすぎてイメージしづらいのが正直なところです。


まずは右側の調達サイドから見ていくことにしましょう。突出しているのが106.3兆円もある「政府短期証券」、これは簡単にいうと国債です。純資産は1.7兆ほどしかなく、外為特会はどっぷり借金に漬かっているといえるでしょう。

次に、左側の運用サイドを見ていくことにしましょう。こちらで突出しているのは有価証券(81.9兆)、そして現預金(26.8兆)といったところです。
まずは、最大の項目である有価証券を見てみましょう。附属明細書によると有価証券はすべて外貨証券で運用されています。円にしろドルにしろマネーそのものは利息も付かない資産なので、外貨証券に替えて少しでも収益を上げようということです。この外貨証券のうち、58.0兆円は外国債となっています。おそらくほとんどが米国債なのでしょう・・・。
次に現預金を見てみましょう。26.8兆円のうち、円が23.4兆円、外貨が3.3兆円。ポイントは円に換算してあるということ、2010年3月末時点で3.3兆円分の外貨を持っていたということです。今回のスキームの資金源はこの外貨ということになります。ただし、記事にある7.6兆円分のドルとは開きがあります。これは、2010年3月末以降に円を売って、ドルを買い進めたことを意味しています。



まとめると、外為特会は円を借金(国債)で資金調達して、外貨を資産として運用している、ということができます。介入を繰り返すことで、溜まってきたドルの有効活用というのが今回のスキームといえそうです。

◆ 為替に関係・・・なくね?

外為特会にあるドル資金を使って、ドルでの投資を支援する。この流れ円は全く登場しません。円高対応緊急ファシリティの円高対応という言葉の意味合いは、「円安に持っていく」というよりはむしろ、「円高の波に乗る」といえるでしょう。
為替介入などという短期的かつ意味のないことで、現状を変えようとするのはやめます。それより、強い円という現状に対応し、有効活用していこうという姿勢といえるでしょう。個人的にはポジティブなことだと考えています。ただ、投資をするとなれば時間軸は中長期的になるはずです。今回のパッケージが1年間という時限措置になっているのは腑に落ちない気がします。

もちろん、海外への投資で産業の空洞化に繋がるなどの懸念がされています。しかし、モノを作る拠点がコストの安い場所へ移行するという流れは不可避でしょう。

◆ 海外M&A、道は険しい

そんな中、成功事例として語られる事が多かったキリンHDも、海外M&Aが一筋縄ではいかないといった報道がなされています。というのも、ブラジルのビール会社の50%超の株式買収し、傘下におさめると発表したのですが、49%超を保有する創業者一族から買収に反対する旨の意見が表明され、法廷闘争にも発展しかねないというのです。
ブラジルの案件は、そもそもの買収価格の水準が割高だったといえます。すなわち、純利益27億の会社の50%を2000億円で買収する。PERでいうと140倍を超える水準にもなるからです。

一般に、高値掴みリスクはM&Aにはつきものです。事情がある程度わかる国内のM&Aですら高値掴みの可能性があるのに、いわんや海外M&Aをや、です。下記のキリンのPLをご覧ください。

キリンHD[2503]のPL(2001-2010)

営業利益と純利益の比率に注目してください。2001年から2009年まではおおむね一致しています。しかし、2010年は営業利益の水準に比べて、純利益は大きく落ち込んでいます。これは、営業利益以下の項目で損失が発生したということを意味します。残念ながら(?)乖離の主たる要因は税金によるものなのですが、同時にのれんの減損による特別損失も発生しています。かつての買収価格が高すぎた、ということです。


一般に、Mergers and Acquisitionsは何気なくアンドでつなげられていますが、AcquisitionsとMergersの間には大きな大きな隔たりがあります。Acquisitionsは「買収」、極論すれば金さえあればなんとかなる、という世界です(ブラジルの案件ももっとお金を積めばなんとかなるのかも知れません)。これに対しMergersは「統合」、文化も歴史も前提も動機も異なる人々を一緒にしようとする世界です。人という感情的な生き物を介するわけですから簡単に行くはずがありません。M&Aの道は険しい、というのが極めて現実的な見方かと思います。

◆ 「素朴な疑問」への回答は?


今回のパッケージは円高に対抗するというよりはむしろ、円高を活用しようとするものです。ですから、短期的な円安誘導効果は見込めないでしょう。キリンの事例にもあるように、海外M&Aには国内M&Aとはまた違ったリスクも存在します。そういったリスクを取ろうとする企業を金融面から支援しようとするのが今回のパッケージといえるでしょう。やはり、日本は海外で稼いでナンボ、なのです。



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