資料を読み進めていくうちに想像以上にありえない項目を発見してしまいました・・・。全く理解を超えていたのですが、ありのままに起こっていたことをお話しします。その項目とは、以前のエントリー(「オリンパス会長、ジャイラスM&A不正会計疑惑で墓穴!焦点は優先株に」)で指摘したとおり、優先株。その価格算定方法でした・・・。
◆ なぜFAは株式オプションを欲したか?
オリンパスとフィナンシャルアドバイザー(以後FAと略記します)との契約で特徴的なのは、「成功報酬の大部分が現金ではなく、株式オプションによって支払われる」スキームになっていることです。オプション取引(Wikipedia)
このスキーム、オリンパスにとっては当面の資金流出が少なくて済むというメリットがありそうです。では、FAにとってはどうでしょうjか?
「株式オプション」は対象となる株式が上場していることが前提になります。しかし、ジャイラス社はM&Aを経て、オリンパスの100%子会社になり、非上場となります。
そんな、会社の株式オプションに一体どんな価値があるのか?
この点は、「M&Aの成果報酬として買収先の株式オプションを付与することなどありうるのか?」という今回の事例の大きな疑問の一つでした。
◆ ジャイラス社再上場シナリオ!?
これに対する答えが、「③ジャイラス社に関する事業戦略の転換について」にあります。当社は当初、ジャイラス社の将来的な再公開を予定しておりました。オリンパスは買収し、非上場化したジャイラス社を再上場させるつもりだったというのです。FAはジャイラス社が再上場を果たした後に、市場でオプションを行使することで収益をあげるという目論見だったようです。
つまり、FAはM&Aの報酬を直接オリンパスから受け取るのではなく、将来間接的に金融市場から得るという構造になります。
個人的には、このオリンパスのいう「再上場シナリオ」にはイチャモンを付けたいと思います。
なぜなら、一般に非上場化→再上場というのは事業の傷んでいる会社を割安な価格で買収し、事業再生し、高値で売却するというものです。これに対し、ジャイラスの買収価格はバリュエーションでみると割高でしたし、オリンパスにも事業再生のノウハウは備わっていないように見えるからです。
◆ 再上場断念、エグジットの機会を奪われたFAが選んだ手法は・・・
しかし、「ジャイラス再上場シナリオ」という前提は覆されることになります。
買収後にジャイラス社の状況を詳細に確認していく中で、特に米国市場においてクロスセルを拡大する余地が大いにあること、またジャイラス社の製造拠点においては、当社の管理手法を導入することで一定のコスト削減効果が見込めること等、想定以上のシナジー効果を早期に実現できることが判明しました。このような状況の変化を踏まえて、当社は、ジャイラス社の再公開を断念し、100%子会社とした上で当社米国子会社等との経営統合を早期に実施することで、外科事業におけるマーケットシェア向上、収益改善を加速させることを2008年4月の取締役会において決定しました。
再上場による利益よりも、ジャイラスを取り込むことで得られる売上・コスト両面でのメリットが大きいため、「再公開を断念」するというのです。買ってみたら思ったより良い会社だったから、自分たちだけのものにしてしまおう、ということです。2007年11月末のジャイラス買収決定から半年後の方向転換でした。
これによって、割を食うのはFAです。何しろ、再上場は消えオプション行使によるエグジットの機会が失われてしまったのですから・・・。
FAはとしては当然、将来間接的に金融市場から回収するはずだった収益を、オリンパスから直接回収しようということになります。そしてFAが持つワラント・株式オプションの買取をめぐる交渉が始まります。
これによって、割を食うのはFAです。何しろ、再上場は消えオプション行使によるエグジットの機会が失われてしまったのですから・・・。
FAはとしては当然、将来間接的に金融市場から回収するはずだった収益を、オリンパスから直接回収しようということになります。そしてFAが持つワラント・株式オプションの買取をめぐる交渉が始まります。
- ワラント:オリンパスが買い取る。対価は50百万$
- 株式オプション(177百万ドル):同額のジャイラス社優先配当株と交換する。
FAにとってみればワラントに関しては、無事現金として回収できメデタシメデタシです。しかし、株式オプションに関しては配当を長期に渡って貰うことに変更しただけで、短期の回収は難しいという構造には変わりありません・・・。
◆ FAからの優先配当株買取オファー、その中身とは?
株式オプションを優先株に交換するとの契約からわずか2ヶ月後の2008年9月、FAからオリンパスに打診がきます。それはオリンパスにいずれかの選択を要求するものでした。
このバリュエーションの条件をめぐって両者は1年超にわたる交渉を続けます。当然です、割引率の設定など前提条件を少し変えるだけで、優先株のバリュエーションは大きく変動するからです。
そして、ついに2010年3月、優先株買取の条件が決定されることになります。
割引率については先ほど、「割引率が低いほどFAにとって有利、逆にオリンパスにとっては不利」といいました。実際の割引率は4.0%・・・。これは、相場感からいってFAにとって有利すぎる水準のように思えます。よほどジャイラス社の成長を見込んでいないとこんな数字にはなりません。
この4.0%という割引率だけでもあり得ないと思うのですが、この式にはそれ以上のあり得ない項目が混じっています。
それは、この式の「0.7」という数字、コレは一体なんなのでしょうか?これを図示してみましょう。
株式オプションを優先株に交換するとの契約からわずか2ヶ月後の2008年9月、FAからオリンパスに打診がきます。それはオリンパスにいずれかの選択を要求するものでした。
- 優先株の第三者への譲渡承認
- 優先株のオリンパスによる買取
株式オプションの10%期待配当の永久価値に相当する額だといいます。具体的な金額は示されていません。これを図示すると下記のようになります。
![]() |
| FA側からの優先株買取請求の概要 割引率が不明であるため、買取価格も不明・・・ |
このバリュエーションの条件をめぐって両者は1年超にわたる交渉を続けます。当然です、割引率の設定など前提条件を少し変えるだけで、優先株のバリュエーションは大きく変動するからです。
そして、ついに2010年3月、優先株買取の条件が決定されることになります。
◆ 優先株のありえなさすぎるバリュエーション
今回の明らかにされた優先配当株のバリュエーションを次のように示しています。![]() |
| 実際の、優先株買取価格の算定式 出所:オリンパスグループ過去の買収案件に関する追加情報 |
この4.0%という割引率だけでもあり得ないと思うのですが、この式にはそれ以上のあり得ない項目が混じっています。
それは、この式の「0.7」という数字、コレは一体なんなのでしょうか?これを図示してみましょう。
![]() |
| 実際の、優先株買取価格の概要 なぜか、FAが払うべき税金分もオリンパスが支払うことに・・・ 出所:オリンパスグループ過去の買収案件に関する追加情報 |
この「0.7」に相当するのは、「税金分」(IR談)だというのです。
つまり、オリンパスは親切丁寧にも、本来FA側が負担すべき配当にかかる税金分までも肩代わりしているというのです。
算数的に言うと、分子を0.7で割ることで、分子の数字は「17.7M$」から「25.2M$」へと40%以上も増加します。FA側にとっては有利すぎ、そしてオリンパスにとっては不利すぎる条件です。
つまり、オリンパスは親切丁寧にも、本来FA側が負担すべき配当にかかる税金分までも肩代わりしているというのです。
算数的に言うと、分子を0.7で割ることで、分子の数字は「17.7M$」から「25.2M$」へと40%以上も増加します。FA側にとっては有利すぎ、そしてオリンパスにとっては不利すぎる条件です。
このように、ジャイラス社の配当優先株のバリュエーションは
- 割引率が低すぎる
- FAの税金負担をなぜかオリンパスが負っている
この買収価格をもって「違法もしくは不正な点があったという事実はないと認識しています。」と言われても、にわかに信じることはできません。
そして、この優先株の値上がり分の実質的な意味をFAの視点で考えてみると、「再上場して市場から間接的に得るはずだったM&Aの成功報酬を、直接オリンパスから得ただけ」ということになるのではないでしょうか?まさしく、M&Aの手数料であると自分は考えます。
◆ 虎の子、ジャイラスは今?
さて、オリンパスがこれだけのあり得ないバリュエーションを弾いてまで外部株主を排除したかったジャイラスの業績はどうなっているのでしょうか?・・・その業績の開示をオリンパスは行なっていません。オリンパスからすると開示に値しない「その他子会社」であるというというのです。
多くの株主価値を代償に傘下に収めることになったジャイラスの業績がどうなっているのか?これは第三者委員会の調査にかかわらず公開できるはずの情報です。



